『筆記能力に関する意見書〜脅迫状・石川一雄作成文書・識字学級生による脅迫状書き取り実験文書に見られる用事・用語の「誤り」の分析〜』
内山・熊谷両鑑定人らは大阪の部落解放・人権研究所識字部会で、被差別部落における識字運動の研究実践に関わってきました。大阪府内の識字学級で識字学級生を対象に脅迫状の書き取り実験をおこない、その実験文書(識字学級生の書き取り文書)と石川さんの作成文書、脅迫状それぞれの用事・用語に関する誤りを分析しました。その結果、識字学級生と石川さんの文書には、漢字の使用が少なく誤字があり、脅迫状のような「当て字」はない。拗音(ゃ、ょ)が正しく書けないこと、名詞のあとの余計な送りがな(夜る)などの誤りが共通に現れている。しかし、脅迫状にはそのような誤りはなく正確に表記されている。以上の分析から、脅迫状は非識字者である石川さんが書いたものとは考えられないことを結論づけています。 |
『文字習得能力及び文章構成能力に関する意見書』
鑑定人の川向秀武鑑定人は識字学級の研究・実践にかかわってきた教育学者。加藤陽一鑑定人は、福岡の識字学級に関わっている教員。
川向・加藤両鑑定人は、日本における識字問題の歴史と現状「非識字者」の実態や漢字習得における学習のあり方などをふまえて、石川さんの当時の識字能力と脅迫状の文章を比較検討し、漢字使用状況、誤字状況の違い、文章構成能力の違いなどを明らかにして、同一人物が書いたものとはいえないことを指摘しました。
また、脅迫状の「あて字」の分析をおこない、非識字者である石川さんが、雑誌『りぼん』からふりがなを頼りに漢字を拾い出し、「あて字」をしたという自白の内容の不自然さを指摘しています。 |
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狭山事件で犯人が残した唯一の物証は「脅迫状」です。確定判決では、「脅迫状と石川さんの筆跡が同一である」と判断しました。
しかし、確定判決の根拠となった警察側の鑑定は、個々の文字の似ている部分だけを取り出して同一だと結論付けたものでした。 弁護団は、専門家による多くの筆跡鑑定書を裁判所に提出し、石川さんが書いたものではないことを証明しています。 筆跡の違いを否定できなくなった裁判所は、脅迫状と石川さんの筆跡が異なることについて、「書き手のおかれた環境、心理的立場の違いによって生じたもので、筆跡に違いがあっても書き手が違うとは限らない」と言い出したのです。 これでは、筆跡鑑定そのものの意味がありません。どんな筆跡でも「同一人物」が書いたことになってしまいます。 そしてこのことは、「脅迫状と石川さんの筆跡には違いがある」と認めていることになり、書き癖の類似点だけをあげている警察の筆跡鑑定も意味がないものになるはずです。筆跡が違えば書いた人が違う。石川さんが脅迫状を書いた人物ではないことは明らかです。 |